スノーボーディング以外の唯一の趣味はギターを弾くことだ。

腕前は10人並以下、というか超ヘタクソだが、たまにはスタジオでバンドのまねごとをしたりもする。特にお題があるわけじゃなく、誰かが出し始めた音に皆が適当に合わせるいわゆるジャムセッションをするのだが、コード進行以外これといった決まりもなくすべてアドリブなだけに、個々のメンバーの音楽的発想と機転がノリを決定することになる。
オレ程度のヘタクソにとってはでかい音が出せるだけで気持ちいいのだが、バンドは一人だけで楽しむことはできない。スタジオに行くたびにオレは自分の音楽的発想の貧弱さとあまりのテクニックのなさに目をまわしてしまう。オレをセッションに誘ってくれるメンバーはなかなか腕がよく、おかげでグルーブ感を味わうことができるが、このグルーブを乱すのは決まってオレだ。コピーでもすれば少しは上達するのだろうが、なぜかCDにあわせてギターを弾く気がしない以上、やはりセッションで皆に鍛えられる以外上達への道はありそうにない。人前で演奏するぜ!なんて野望はこれっぽっちもないが、楽しむための基本的なテクニックくらいは身につけたいし、自分が出したい音も知っておきたい。
ヘタでも味のある音くらい出せるはずなのだが、なにしろオレの場合はヘタの上に超が付くのだ。まあいい、あと10年も弾き続けていれば少しはいい音も出せるようになるだろう。なんと言ってもたかが遊びだ、楽しめればいい。

オレをセッションに誘ってくれるバンドのメンバーは全員スノーボーダーなので、たまには一緒に滑りに行く。彼らはなかなかいいライディングをするが、オレの方がだいぶ腕がいい。オレは17年間スノーボーディングに首までドップリと浸かってきた。だからそれなりに上手に滑ることができるのだ。
当然、山のセッションでは両者の立場は逆転する。今度はオレが彼らを鍛える番だ。と言っても、ただ一緒に滑るだけなのだが、彼らに言わせるとこのセッションはなかなか刺激的だそうだ。オレは自然の立体的な地形を滑ることが多いのだが、目の前に次々と現れるセクションをアドリブでこなしながら滑るだけに、イマジネーションと機転が自分のラインを決定することになる。すべてのセクションをスピードに乗ってこなしている時のグルーブ感はオレにとってなにものにも代えがたい興奮だが、後ろから同じラインをトレースしている彼らもきっと自分なりにそのグルーブを感じているのだろう。
やはり上達への近道はハードな練習より楽しく攻め続けることに間違いなさそうだ。その上、彼らはオレがギターを好きな以上にスノーボーディングを愛している。オレはスノーボーディングという行為そのものを純粋に楽んでいる好き者たちと滑っている時が一番楽しい。テクニックやスタイルに関係なく、きっと一生滑り続けるんだろうな、と思える人たちにはいつも刺激を受けてしまう。そりゃあヘタより上手いほうがいいに決まっているが、要は取り組み方なのだ。スノーボーディングはたかが遊びだ。どうせならきっちり遊び倒したほうがいい。

なんだか当たり前のことを書いてしまったが、依頼された「山と音楽とスノーボーディング」というタイトルに関してオレは特に主張がないのでしょうがない。そんな時は全国スノーボードショップで好評発売中の我が社のCDでも聞いて気分を変えてみることをおすすめする。







田口勝朗
1966年東京生まれ。19歳でスノーボードを始める。コンテストやメディア活動にも精を出していた時代もあったが、現在は好き勝手なスノーボーディングを楽しんでいる。グリーンクロージングを扱う八百由のオーナーでもあり、仕事に山に多忙な日々を送っている。趣味が高じて立ち上げたCDレーベル“ヤオヨシレコーズ”の音源もなかなか好評らしい。
(雑誌Free Ride掲載/2001年)