今は8月。そしてこの事務所の温度は36℃。今日も窓全開でクーラーはOFF。汗だくで書類が肘にはり付くけどなんとか耐えられる。メシを喰いに入った店では「寒い」と言って冷房を弱めてもらう。「客を冷やすこと」をサービスと考える店や「経済発展の真最中」なアジアの国が大気中にco2をぶちまける、そのかわりにオレはクーラーをつけない。

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昨日は深夜2時までコンピュータに向かって仕事をした。どちらかというと夜型のオレにとってはいつものことだ。たまには電気もコンピュータも付けっぱなしで朝まで眠ってしまうこともある。ちなみに日本中で使われている待機電力は原発3基分の消費量だそうだ。


例えば、紙や木材製品を選ぶときは原産国や材質を店やメーカーに尋ねる。回答があいまいな場合は欲しくてもあきらめる。日本で大量に流通している熱帯材製品を買わないためだ。手に取ったモノがどんな犠牲の上に成り立っているのか、最終的にはどこに消えて行くのか、それを知った上で金を払う様にしている。
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オレは今、コットンのTシャツを着てコーヒーを飲んでいる。そう、タバコも吸う。世界の農薬使用量ベスト3はコットン、タバコ、コーヒーだ。そしてオレは生活のために、土に帰らない石油製品を電力を使って製造し、Co2をぶちまけながら流通させている。


長い信号待ちではアイドリングを止める。焼け石に水と言われようがそうせずにはいられない。
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気に入ったデザインのものは気持ちを豊かにしてくれるが、オレが大事に乗っている古いボルボはあまり燃費がよくない。


コンビニには行かない。喰った分と同じ大きさのゴミを捨てなくてはならないからだ。ペットボトルや缶ジュースもほとんど買うことはない。リサイクルしているとはいえ元は石油や鉱物等の天然資源だし、たとえばペットボトルは繊維などに再生されるが、その繊維が回収され再び何かに再生される、もしくは再生ペットボトルとしてひたすら循環し続けるという永続的なサイクルが実現しない限り最終的にはゴミだ。いずれにしてもオレには「リサイクル」という言葉の安心感が極端な大量消費に繋がっているとしか思えないのだ。
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朝イチから山に登るときはコンビニで食料を買う。弁当を作るために30分の早起きができないのだ。そして夜は缶ビールで乾杯する。旅先でビンを捨てるのが面倒だからだ。ちなみに一本のビールビンはその都度洗浄し25回近く再利用されるため、再生加工にエネルギーを必要とするリサイクルに比べ、環境への負荷がとても少ないそうだ。


娘の寝顔をみながら、彼女はどんな自然環境の中を生きるのかを想像してブルーになる。
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たくさん消費する紙オムツを捨てるために、レジ袋もたくさん消費する。

 

「観測史上初」という言葉を聞くたびに震え上がり「少しでも温暖化の進行を遅らせるため」にオレが実践しているのはせいぜいこの程度のことでしかない。できることをやっているつもりだが、まだまだだなあ。オレはスノーボーディング以外にやりたいことはないから、雪が降らなくなると困る。それに寿命を全うするまで楽しい老後を過ごしたい。謎の疫病や自然災害で死ぬのはいやだ。だからオレは誰のためでもなくオレ自身のために、今できることをやらなくてはならないのだ。よ〜し、今日から早寝しよう。

田口勝朗
1966年東京生まれ。スノーボードウエアGreen Clothingのボス。80年代後半から環境問題に強い関心を持つが、乱伐された熱帯林で死に行くナマケモノを捉えた1枚の写真に衝撃を受け、この問題から目を逸らせがちに。近年、「誰かがやってくれるだろう」という考えを捨て、再び現実を直視するようになった。

(雑誌Fall Line掲載/2007年)